ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
71 継母と異母妹が追い詰められていきます!
スコットを乗せた幌馬車は、何気ない日常での風景の一部みたいに、呆気なく通り過ぎて行った。
「別れの挨拶はしなくて良かったのか?」
少し離れた木陰に立っていたユリウスが、おもむろにクロエに近付いてから尋ねた。
「別に……。彼と話すことなんてないわ」と、彼女は首を横に振る。
――ただの、ゴーストだろう?
忘れもしない。あの時、あの瞬間。
以来、自分と元婚約者との関係は、もう終わったのだ。
もう彼のことなんて知らないし、どうだっていい。これから彼の運命がどうなろうと、自分には関係ない。
「じゃあ――」彼は彼女の頬にそっと手を当てる。「なんで泣いているんだ?」
「…………」
彼女の瞳からは、ぽろぽろと涙が零れ落ちていた。
彼の差し出したハンカチが、みるみる湿っていく。
ややあって、
「分からない……」
抑揚のない声で、彼女はぽつりと呟いた。
そして再びの沈黙。
「そうか」
「…………」
彼は彼女の手を握る。それは氷のように冷たくて、微かに震えていた。
にわかに得たいの知れない焦燥感が彼を襲う。やはり彼女は、自ら破滅へと向かっていっている。
このままでは、彼女がどんどん自分から離れて行きそうで、胸が波立った。
「行こうか」と、ユリウスは小さく言う。
クロエは軽く頷いて、彼とともに歩き始めた。
「別れの挨拶はしなくて良かったのか?」
少し離れた木陰に立っていたユリウスが、おもむろにクロエに近付いてから尋ねた。
「別に……。彼と話すことなんてないわ」と、彼女は首を横に振る。
――ただの、ゴーストだろう?
忘れもしない。あの時、あの瞬間。
以来、自分と元婚約者との関係は、もう終わったのだ。
もう彼のことなんて知らないし、どうだっていい。これから彼の運命がどうなろうと、自分には関係ない。
「じゃあ――」彼は彼女の頬にそっと手を当てる。「なんで泣いているんだ?」
「…………」
彼女の瞳からは、ぽろぽろと涙が零れ落ちていた。
彼の差し出したハンカチが、みるみる湿っていく。
ややあって、
「分からない……」
抑揚のない声で、彼女はぽつりと呟いた。
そして再びの沈黙。
「そうか」
「…………」
彼は彼女の手を握る。それは氷のように冷たくて、微かに震えていた。
にわかに得たいの知れない焦燥感が彼を襲う。やはり彼女は、自ら破滅へと向かっていっている。
このままでは、彼女がどんどん自分から離れて行きそうで、胸が波立った。
「行こうか」と、ユリウスは小さく言う。
クロエは軽く頷いて、彼とともに歩き始めた。