ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜


 クリスはふらふらと覚束ない足取りで娘の部屋へと向かう。

 パリステラ家の用意した上品で高価な調度品と、少女趣味が融合したコートニーの部屋は、今では見る影もなく荒れ果てていた。
 ガラスや陶器は粉々になって床に散らばって、ドレスもぐちゃぐちゃ。厚いカーテンは開けられることはなく、薄暗くて、どろどろした空気のこもった陰鬱な空間に成り果てていた。

「お母様……」

 コートニーは、光のない濁った目を母親に向ける。
 彼女はずっと部屋から出られなくて、やることと言ったらひたすら食べるだけ。あんなに華奢で可憐な姿は打って変わって、今は丸々と肥えて、顔は脂まみれで吹き出物がぽつぽつとできて、まるで別人のようになっていた。

 彼女は母親が来るなりぎゅっと抱き着いて、

「あたし……悔しい! あんな女なんかにっ……!」

 大声でわんわんと泣き始めた。

 こんなはずじゃなかった。
 母親と一緒にパリステラ家にやって来て、二人で屋敷を乗っ取る予定だった。そして、自分たちの場所に図々しくも居座っていたあの女を、地獄に突き落とす予定だったのだ。

 それが、今では惨めなのは自分のほう。
 あの女に負けるどころか、社交界からも追放されて、もうなにも残っていなかった。

 反比例するかのように脂肪ばかり蓄えていって、豚みたいな醜い身体が、いつもひび割れた鏡の前で嘲笑っているのだった。
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