ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜



「お嬢様っ! 大変ですっ!」

 そのとき、執事の一人が血相を変えてクロエのもとへ駆けて来た。真っ赤な顔で、息を切らしている。

「どうしたの?」

 彼女は招待客たちに不安を抱かせないように、平静を装って尋ねた。

「それが……離れの倉庫から、ぼやがっ……」

「なんですって!?」

 クロエは思わず声を荒げる。たちまち顔色は青くなった。逆行前の嫌な記憶が蘇る。
 離れの倉庫は、亡き母親の遺品をしまっているのだ。それは彼女にとってかけがえのない大切な思い出の品々だった。そこに……火の手が?

 にわかに指先から氷のような冷たさが全身に広がった。
 彼女は客人たちを気遣う余裕もなく、離れの倉庫へと急いで向かう。



「お母様っ!!」

 慌てて小屋の扉を開ける。血走った目で部屋の中を見た。母の遺品にも火が燃え移ったのだろうか、と用心深く観察する。

 しかし、母の思い出たちは今も美しく保たれたままだった。彼女はほっと胸を撫で下ろす。

(良かったわ……。お母様の遺品が無事なら、ぼやは外かしら? ――というか、火事なのに誰もいないの?)


 静かな空間。
 嫌な予感がして悪寒が走った。

 不穏の正体を確かめようと小屋の外へ出ようと立ち上がった折も折、

「っつ……!?」

 突如、背中に衝撃が走って、つんのめる。打ちどころが悪かったのか、一瞬呼吸が止まった。

 驚愕して扉のほうに眼球を動かすと、


「最初からこうすれば良かったわ……」

 継母クリスと異母妹コートニーが、クロエを濁った目で見下ろしながら、歪んだ笑みを浮かべていた。

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