ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
73 巻き戻っても二人は変わらないままでした! ※暴力的な表現、不快な描写あり※
「最初からこうすれば良かったわ……」
クリスの瞳が、研がれた刃物みたいにぎらりと煌めく。
隣に立っているコートニーは、脂と吹き出物で照った顔をにちゃにちゃと歪ませていた。
クロエは呼吸を整えて立ち上がろうとするが、
「っ……!?」
身体が痺れて手足が全く動かない。
途端に酷く重い空気が彼女を包んだ。全身が真上から圧をかけられているかのように、胸が苦しくなる。
「闇魔法ね……」
「あら、よく分かったわね。さすが聖女様」とクリス。「そろそろ効いてきた頃かしら?この部屋自体に魔法をかけてあるの。お前はもう動くことができないわ」
迂闊だったとクロエは唇を噛んだ。もっと警戒して臨めば良かった。
きっと、床表面にだけ闇魔法の膜を張っていたのだろう。部屋に入ってすぐに気付かれないように、こうやって倒れたときに吸い込むように。
――ドンッ!
そのとき、またもや背中に衝撃が走った。
思わず目を閉じ、少しして何事かと再び開けると、今度は腹に鈍い音が響く。
「っはっっ……!」
ダン、ダン、と数回打たれる。またもや瞳を閉じて、身体を丸めて防御体勢をとった。
「コートニー、やめなさい」クリスが娘を制止する。「これは大事な商品なのだから、無闇矢鱈に傷を付けては駄目よ」
「でもっ、お母様っ! この女は、あたしにっ――」
「これから、この娘が傷物にされる哀れな姿をたっぷり拝めるんだから、我慢しなさい」
「はぁい……」コートニーは渋々引き下がった。「あーあ、スコット様にも見せてあげたかったなぁ~」
「そうねぇ。婚約者の前で傷物にされるなんて、最高に面白いわよね。こんなことになるのなら、もっと早くやれば良かったわ。公爵令息の目の前で」
クロエは、ぞくりと背筋に悪寒が走った。
二人の会話には聞き覚えがあった。逆行前に、娼館送りが決まったときに言われた言葉だ。聞きたくもない、おぞましい悪魔の台詞。
二人とも、あの頃となにも変わっていない。
やはり人の本質というものは、いつまでも同じなのだ。己から変わりたいと強く願わない限りは。
もしかしたら、自分も逆行前の記憶を持っていなければ、変わらないままだったかもしれない。そして、再びこの母娘に陥れられるだけだったかもしれない。
そう考えると、時間操作という魔法を与えてくれた……母に感謝した。
なぜ、伝えてくれなかったのか――という余計な気持ちは胸の奥に押し込んで。
クリスの瞳が、研がれた刃物みたいにぎらりと煌めく。
隣に立っているコートニーは、脂と吹き出物で照った顔をにちゃにちゃと歪ませていた。
クロエは呼吸を整えて立ち上がろうとするが、
「っ……!?」
身体が痺れて手足が全く動かない。
途端に酷く重い空気が彼女を包んだ。全身が真上から圧をかけられているかのように、胸が苦しくなる。
「闇魔法ね……」
「あら、よく分かったわね。さすが聖女様」とクリス。「そろそろ効いてきた頃かしら?この部屋自体に魔法をかけてあるの。お前はもう動くことができないわ」
迂闊だったとクロエは唇を噛んだ。もっと警戒して臨めば良かった。
きっと、床表面にだけ闇魔法の膜を張っていたのだろう。部屋に入ってすぐに気付かれないように、こうやって倒れたときに吸い込むように。
――ドンッ!
そのとき、またもや背中に衝撃が走った。
思わず目を閉じ、少しして何事かと再び開けると、今度は腹に鈍い音が響く。
「っはっっ……!」
ダン、ダン、と数回打たれる。またもや瞳を閉じて、身体を丸めて防御体勢をとった。
「コートニー、やめなさい」クリスが娘を制止する。「これは大事な商品なのだから、無闇矢鱈に傷を付けては駄目よ」
「でもっ、お母様っ! この女は、あたしにっ――」
「これから、この娘が傷物にされる哀れな姿をたっぷり拝めるんだから、我慢しなさい」
「はぁい……」コートニーは渋々引き下がった。「あーあ、スコット様にも見せてあげたかったなぁ~」
「そうねぇ。婚約者の前で傷物にされるなんて、最高に面白いわよね。こんなことになるのなら、もっと早くやれば良かったわ。公爵令息の目の前で」
クロエは、ぞくりと背筋に悪寒が走った。
二人の会話には聞き覚えがあった。逆行前に、娼館送りが決まったときに言われた言葉だ。聞きたくもない、おぞましい悪魔の台詞。
二人とも、あの頃となにも変わっていない。
やはり人の本質というものは、いつまでも同じなのだ。己から変わりたいと強く願わない限りは。
もしかしたら、自分も逆行前の記憶を持っていなければ、変わらないままだったかもしれない。そして、再びこの母娘に陥れられるだけだったかもしれない。
そう考えると、時間操作という魔法を与えてくれた……母に感謝した。
なぜ、伝えてくれなかったのか――という余計な気持ちは胸の奥に押し込んで。