ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「なにをっ……!?」
異母妹からの理不尽な暴力が終わったと思いきや、今度は無造作に髪を掴まれて、鼻の前でなにやら黒紫色の液体の入っている小瓶の中身を嗅がされた。
むせ返るような濃いムスク系の香りで、蓋を開けた途端に液体から煙が立ち上って、クロエの鼻腔へ入っていく。
刹那、身体がかっと熱くなって、くらくらと視界が揺らめいた。
継母はくすりと笑って、
「これは闇魔法で効果を倍増させた幻覚剤よ。あなたも噂くらい聞いたことがあるでしょう?」
「……」
クロエは肯定するように、じろりと継母を見た。
ここ最近、国境を越えて騒がれている幻覚剤の話は聞いたことがある。
薬草を使用したものとは異なり、高い即効性、持続性、そして依存性を持つと言われている薬品だ。少量でも体内に侵入すると、たちまち気分が高揚して、夢心地になるらしい。
……それは、男女の交わりに使用されることが多かった。
この幻覚剤はじわじわと地下で広がって、貴族・平民を問わずに秩序を乱していた。
ユリウスが闇魔法組織の糸口を掴んで安堵していたのは、この幻覚剤の撲滅も絡んでいたのだ。