ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「あなたはね……」クリスは優しい声音で続ける。「幻覚剤にすっかり依存してしまった愚かな令嬢なの。パーティーを取り仕切らないといけないのに、僅かな時間さえ我慢できなくて、幻覚剤を使って男たちと遊ぶような……とっても恥ずかしい令嬢なのよ?」
「お異母姉様は貴族令嬢として、あたしより無様なスキャンダルで賑わせるのよ。聖女様が闇魔法の幻覚剤に依存して、おまけに多くの男たちを相手に楽しんでる、ってね」
「入って来なさい!」
クリスが合図をすると、扉の外からぞろぞろと男たちが入って来た。
下卑た表情を浮かべるゴロツキたちで、こんな見るからに粗野な人間をよく侯爵家に忍び込ませたものだと、クロエは感心さえ覚えた。
「頑張ってくださいね、お異母姉様! 証人として、傷物になる姿をちゃんと見守っていますから!」と、コートニーが笑顔で言う。
「心配しなくても、修道院ではなくて娼館に入れてあげるから安心しなさい? それも特別な性癖を持つ殿方たちの相手をする店をね。初めてなのに幻覚剤と大勢の男の味を覚えたら、きっと普通の行為では満足できなくなると思うわ」
「あたしの代わりに世間から猛批判を受けて自滅していってくださいね! パリステラ家にはあたしが残りますので!」
「――じゃあ、さっさと始めましょうか」
継母と異母妹は、下品な笑い声を上げた。
男たちはすっかり興奮した様子で、じわじわと聖女様に近付く。
クロエは、指一つ動かせない。
「さぁ、母親の思い出の残った部屋で男たちに抱かれなさい」
クリスの何気ないその言葉に、突然クロエの中で、なにかが破裂した。
そのとき、一人の男の手がクロエの身体に触れる。
「そこまでだ」
同時に、険しい声が小屋内に響いた。