ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
――――、
そのとき、クロエがおもむろに起き上がった。
「クロエ! 大丈夫か? 怪我は?」
ユリウスは慌てて彼女のもとへと駆け寄る。
「特に問題ないわ」
彼女は異変を感じた瞬間、自らに魔法をかけていた。体内に侵入した闇魔法の成分を魔法で塞き止めていたのだ。
今度は一時停止をした時間を戻して、それを逆流させる。身体から黒いもやが出て行って、宙で掻き消された。
彼はほっと胸を撫で下ろして、
「無事で良かったよ。君が血相を変えてどこかへ向かったって聞いたときは、なにか良からぬ事件でも起きたんじゃないかって心配だったんだ」
「……来てくれてありがとう」
「わざわざ時間を止めなくても、近くに警備を呼んであるのに。まぁ、君が望むのなら――クロエ?」
「…………」
クロエは軽く全身を動かして、特に異常がないことを確認すると、クリスの持っている幻覚剤の小瓶を取った。
ゆっくりと丁寧に蓋を開けて、その中身を継母と異母妹の口の中へと一滴ほど垂らす。そして顎を持ち上げて体内へと滑り込ませた。
こういった薬は、直接体内に取り込んだほうが効力が倍増するからだ。
「なにをやっているんだ?」と、ユリウスは咎めるように訊く。
クロエはきょとんとした顔で首を傾げてから、
「なにって……見ての通りよ」
「これは闇魔法でできている危険な薬なんだぞ!?」
「その薬を彼女たちは私に使おうとしたわ」
彼女は彼の言外の批判なんて気にも留めずに、今度は継母と異母妹を床に横たえた。そして、ドレスの上半身を軽くはだけさせる。
「おい!」
「……やっぱり、こういうのって女性が上のほうが衝撃的で映えるかしら?」
彼女はくるりと踵を返して、次はゴロツキたちのもとへと向かった。それから彼らを横たえて、それを跨ぐ格好になるように継母たちを動かす。
「クロエ!」
出し抜けに彼が彼女の手首を掴んで制止する。