ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「……なにかしら?」と、彼女はむっとした顔で彼を見た。
二人とも硬直したように少しも身体を動かさず、ちょっとのあいだ視線を交際させて牽制し合う。
ややあって彼は軽く息を吐いてから、
「彼女たちは、闇魔法を使用したという時点で、もう極刑が決まったも同然だ。特に異母妹のほうは、魔石に続いて二度目の犯罪だからな。……だから、これ以上君が手を汚す必要はない」
「…………」
彼女はまだ動かない。
「これ以上すると、パリステラ家の名誉も傷付く。それは、聖女クロエの名も……君自身のことも貶めていることと同じなんだ。仮に復讐が完了しても、不名誉な噂はずっと付いて回るぞ。もっと自分を大切にしてくれっ!!」
「…………」
しばらく冷たい沈黙が停滞する。ユリウスは懇願するかのように彼女を見て、クロエは感情が乗っていないかのように無表情で彼を見た。
そして、
彼女は彼から掴まれた手を出し抜けにぱしりと弾いて、黙々と作業を続けた。
「クロエっ!」
彼の強い叫び声が部屋中に響いた。
彼女ははたりと動きを止めて、
「だって……」
さっきまでとは打って変わって、身を震わせながら涙目で彼を見る。
「一体、どうしたんだよ? いつも冷静な君なのに、らしくないじゃないか」
「この人たちはまたお母様を侮辱したのよ! 逆行前も、今回も! ……絶対に許せない!」