ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
クロエはさっきの継母の言葉がどうしても受け入れられなかったのだ。
母親の思い出の前で、なんて……なんて汚らわしい。あまりに気持ち悪くて吐き気がした。
こんな同じ人間とも思えない物体に、なぜ同情心なんて持たないとけないのだろうか。人とも思えない所業を平然と行うのなら、同じことをされたって自業自得じゃないか。
「それに、あなただって私の好きにしていいって言ったじゃない! この前だって……。だから、母の報復は自身の手で行うわ!」
「君は……母君の思い出の詰まった場所で、こんなおぞましいことをやらせるつもりか!?」
すっかり頭に血が上って冷静さを失ったクロエの頭に、清涼剤のようなユリウスの言葉が響いた。
「っつ……!」
途端に、彼女の荒れ狂った波のような黒い心が、凪いだ。
改めて部屋中を見渡す。
そこには、母が生前大切にしていた数々の品が綺麗に整頓されてあって、まるでそこに母が生きているような面影が見えたのだ。
それは、今にも母が笑顔で話しかけてくれるような。
「お母様……っ…………」
クロエの頬に静かに涙が伝った。
彼の言う通りだった。
母がいるこの場所を汚すわけにはいかない。母の思い出を守らなければ。
クロエは、おもむろに扉の外へと歩き出す。
そして、時間停止の魔法を解いて、
「きゃああぁぁぁぁぁっ!!」
中庭に向かって、思い切り叫んだ。