ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
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「ちょっと……どういうことっ!?」
庭園の散策から戻ったクロエの前に信じられない光景が広がっていた。
彼女の持ち物は全て床に堆く積み上げられて、それを継母と異母妹が吟味していたのだ。
「あら、聞いていなくて?」クリスは薄笑いを浮かべる。「今日からこの部屋はコートニーのものになったの。偉大な魔力を持つ侯爵家の令嬢として、ね?」
「そんなっ……聞いていないわ!」
「お父様が言い忘れていたのね」今度はコートニーがくすくすと意地の悪い笑みを浮かべた。「魔法が使えない娘なんてパリステラ家の者じゃないわ」
「っ……!」
クロエは凍り付いた。言い返そうにも、二の句が継げない。
それは……本当のことだと思ったからだ。高位貴族に必要不可欠な魔力を自分は持っていない。その事実は、貴族として失格だと烙印を押されたのも同然だ。
青白い顔をして佇む彼女に、追い打ちを掛けるように継母が言う。
「と言うか……本当にあなたは侯爵の娘なのかしら? 魔法が使えないなんて……前侯爵夫人は平民の下男とでも浮気をしていたんじゃないの?」
「っ! このっ――」
大好きな母を侮辱されてクロエは思わず手を上げそうになったが、すんでのところで背後から手首を掴まれて阻まれた。はっと我に返って振り向く。
そこには――、
「お父様!?」
「なにをしているのだ」
これまで見たこともないような険しい顔をして、ロバート・パリステラ侯爵が彼女を見下ろしていた。
「離してくださいっ! お継母様がお母様に侮辱を――」
「この部屋は今日からコートニーのものとなった。早く出て行きなさい」
ロバートはクロエの腕を引っ張って、強引に扉の外へ放り出した。
唖然と、父を見上げる。
そこには既にもう背中しか映っていなくて、ばたりと無常に扉は閉じた。
クロエの部屋が変わった。