ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
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「なんでっ、あたくしをこんな場所に閉じ込めておくのっ!? 早く出しなさいっ!!」
もう何度目かも分からないクリスの叫び声が、地下牢に響いた。
あんなに美容に気を遣っていた彼女の肌は黒ずんでひび割れ、オイルで綺麗に手入れされていた頭髪も今では輝きを失って、古い糸のようにぐちゃぐちゃに絡まっていた。その痛々しい姿はとても高位貴族には見えず、さながら貧困街の乞食のようだった。
「あたくしはパリステラ侯爵夫人よっ! すぐに旦那様を連れて来なさいっ!!」
またぞろ侯爵夫人の絶叫が響く。
しかし、地下はしんと静まり返ったままで、彼女はただただ声を枯らすだけだった。
「あの女……殺す……殺す…………」
牢獄の隅では、コートニーが膝を抱えてぶつぶつと呟いていた。
彼女は、これまでの威勢はどこかへ置いてきたかのように、ただ静かに異母姉への恨み辛みを囁くだけだった。
あんなに自慢だったつぶらな瞳にはもう光が宿っていなくて、ただクロエへの憎悪の感情だけが身体中を巡っていた。
地下牢に放り込まれて、もう何日たっただろうか。
当初はすぐさま処刑の予定だったが、協議の結果、闇魔法組織の実態を暴いてから刑を施行しようということになった。
クリスを中心に取り調べを行おうとしたが、彼女たちには保護魔法がかかっていて、闇魔法について決して口を割ることはなかった。
そこで、今度はかけられた魔法を解除しようと、王宮の魔導士たちが苦心していた。それは複雑な術式の闇魔法で、国の中枢の魔導士たちにも解除は非常に困難だったのだ。
だから、二人はもう長いこと太陽を見ていなかった。
もっとも、再び地上へ出るときは、彼女たちの最期の日になるのだが。