ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
一度だけロバートが来た。
やっと助かったと思ったら、彼は鬼の形相で二人を罵るだけ罵って、さっさと帰って行った。
それだけだ。
その後は、誰かが訪ねて来ることは二度となかった。
もちろん、母娘の不幸の元凶である忌々しい長女も……。
クリスは声を上げ続けるのに疲れ果てて、その場にへたり込む。もう涙も枯れ果てて、すっかり干からびた双眸で暗闇を見つめていた。
彼女も娘と同様に、継子への憎しみだけが胸に渦巻いていた。
侯爵を誑かして名門貴族を乗っ取るという長期に渡る計画は、一人の小娘によって完全に阻止されてしまったのだ。
しかも、逆に嵌められて、今では処刑を待つ身。
……このような不条理があってなるものか。なんとかして、ここを抜け出して、あの娘に復讐をしなければ。
でないと、死んでも死にきれない。
死の気配はひたひたと間近に迫って来ていた。
何度目かの取り調べのあと、魔導士の来訪がぴたりと止んでしまったのだ。
時間を把握できるのは、今や朝昼晩の規則正しい食事の配膳くらいだ。
もう死を迎えるばかりなのかと、絶望で頭がどうかなりそうだった頃だった。
いつもとは異なる時間に、扉の向こうから微かに足音が聞こえた。
それは深夜にあたる時間帯で、公開処刑のはずなのに、計画が変わったのだろうか……あるいは再び辛い取り調べが再開するのだろうか……と、クリスが首を傾げていたら――、
「侯爵夫人、侯爵令嬢! 助けに参りました!」
二人の前に現れたのは、レイン伯爵令息という……希望の光だった。