ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「出掛けるぞ」
「ど、どちらへ!? もう夜になりますよ」
「伯爵家の邸宅だ!」
ユリウスは急いで執務室を出る。
なにか胸の中で引っかかっているものはあった。しかし、復讐においての手札の一つなのだと深く考えないようにしていたのだ。
己の予測が正しければ、脱走した二人も……そしてクロエも、レイン伯爵令息と一緒にいるはずだ。
以前、二人一緒に伯爵家に赴いたことがあった。
あのときは、てっきり闇魔法組織を壊滅するために向かったのだと思っていた。だから、帝国側としても状況を把握しておきたいと、彼女の護衛も兼ねて同行したのだ。
しかし、彼女は「闇魔法を暴露されたくなければ自分に従うように」と、令息を脅し付けていた。
不可解に思って理由を訊いたら「継母を陥れるカードとして残しておきたい。だから少しだけ待って欲しい」と、彼女は答えた。
それならばと彼も承諾して、この件はクロエに一任していた。
きっと、継母と組織を一網打尽にする計画を立てているのだろう、と。そして、確実に処刑へと向かわせるように。
それに無事に処理できたら、彼女の功績にもなるので、家門の恥も少しは相殺できるかもしれない。
……そんな風に楽観的に考えていた。
だが、
もしそれが、自分の思い違いだったら?
「っ……」
胸騒ぎが、彼の心にとぐろを巻いて、急き立てた。