ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
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「素晴らしい……! まさに生ける芸術品!」
新しい作品を前にして、レイン伯爵令息は興奮を隠せなかった。このような素晴らしい品は見たことがない。
人間の剥製は、その製法から、どうしても人形のように硬質になってしまう。これは、永遠の美しい姿を保つために、仕方のないことだった。
しかし、新たにコレクションに加わる眼前の二体の剥製は、どうだろうか。
まるで生を受けているかのように血色が良く、肌も弾力があって、しかも体温を感じる。
さながら眠りについている人間そのものだ。
「……まだ術は完成していないので、扱いには気を付けてくださいね」
「もちろんです」伯爵令息は満面の笑みを浮かべて「……しかし、まさか聖女様も闇魔法を嗜んでいるだなんて、とても驚きましたよ」
聖女が屋敷に訪ねて来たときは、心臓が止まるかと思った。
なぜなら、彼女には魔法大会で自分が闇魔法を使用していることを知られてしまったから。
このまま騎士に突き出されるのかと戦々恐々としていたら、彼女は意外な取引を持ちかけて来たのだ。
「この秘密を口外しない代わりに私の計画に協力をして欲しい」……と。
彼は二つ返事で快諾した。
闇魔法や人間のコレクションの事実が露見すれば、自分や家門はどうなるか分からない。犯罪が白日の下に晒された貴族の第一号として、見せしめに苛烈な罰が待ち受けているのは間違いない。
それだけは、なんとしてでも回避したかった。
それに、彼女はどうやら自分のことを悪いようにはしないようだったから。
……おまけに、聖女も闇魔法を扱うという衝撃の事実。
いざとなったら、先にこの件を暴露して、彼女のほうを国に売ればいい。
そんな水面下の打算で、彼らは協力関係になったのだ。