ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
クロエはにっこりと微笑んで、
「聖女として光を司るには、反対側も知っておかないとなりませんの」
「それは研究熱心だ。それにしても、素晴らしい……」
伯爵令息は再び目の前の作品を眺めた。
見れば見るほど吸い込まれるようだ。本当に生き生きとしている。微かに感じさせる鼓動が艶めかしい。
願わくば、己も聖女の操る魔法を習得したいところだ。
これは、剥製を超えている。まるで、ここだけ時が止まっているように。まさに……闇魔法の革命!
クリス・パリステラとコートニー・パリステラの剥製は、生前よりもうんと魅力的に映った。
「あとは――」
作品に見入っている伯爵令息にクロエがそっと声をかける。途端に彼は我に返って苦笑を浮かべた。
「すみません、あまりにも感動してしまいまして」
「いえ……。あとは、月明かりを一晩浴びれば術の完成ですので。……しかし、よろしかったのですか?」クロエはちらりとコートニーを見やる。「もう少し痩せさせてからのほうがいいのでは……?」
コートニーは、地下牢に押し込まれたせいで、自室に監禁されていた頃よりは痩せ細っていたのだが、それでもまだふくよかな体型だった。
「あぁ、それは構いません。そういう趣味の紳士も意外に多いのですよ?」と、伯爵令息は意味深長に片目を瞑る。
「そうですか。……では、最後の仕上げといきましょう」
クロエは湧き上がる嫌悪感をおくびにも出さずに、にっこりと微笑んだ。
二人は、伯爵家の中庭へ向かって、静かに歩きはじめる。