ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
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「クロエ!」
レイン伯爵令息と月明かりの下の鑑賞会も終わる頃、ユリウスが息せき切ってやって来た。
「ユリウス……」
クロエはおもむろに振り返る。彼女の美しい顔は青ざめていて、本当に闇魔法に取り憑かれたような恐ろしい冷たさを帯びていた。
ぞっとするようなおぞましい雰囲気に、ユリウスは目を見張った。
「これは……どういうことだ?」
彼は彼女たちの背後にある人間の像を見る。
裸体に塗りたくられた蜜がてらてらと輝いて、そこに吸い込まれるように翅を持つ客たちが集まっていた。
「なにをしているんだ……?」と、彼の眼光は自然と鋭くなる。
クロエは彼の言外の抗議を黙殺して、
「お騒がせしてごめんなさい。私の秘術は、まだ助手には教えていなかったの」
「そうですか。たしかに、これほどの魔法は門外不出でしょう」
「では、私たちはこれで。ご機嫌よう」
クロエはおもむろに踵を返して、そのあとをユリウスが大きな足音を立てながら付いて行く。
「どういうことだよ、クロエ!」
ついに我慢できなくなった彼が、彼女の肩を背後から掴んだ。
「どういうことって……見ての通りよ」と、彼女は冷淡に答える。
「復讐は終わったんじゃないのか!? 先日、母君の――」
「あのときは……お母様の前で、醜いものたちを晒したくなかっただけ。ただ、場所の問題よ。……終わってなんかいないわ」
「そんな……!」
彼女は彼の手を振り払い、先へ進む。
彼も置いていかれないように、早足で付いて行く。
「あれらは、どう見ても生きていた。君の魔法の仕業だな。自分がなにをやっているのか分かっているのか?」
「自分のことなのに、分からない行動なんてあるわけないじゃない」
「誤魔化すな! ……君が行ったことは、人の尊厳を奪う行為だ。やり過ぎだ!」