ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「……やり過ぎ、ですって?」
不意に、クロエは足を止めた。
「そうだ。いくら復讐とはいえ、人として絶対にやってはいけないことがある」
「……」
ユリウスはクロエの両肩を強く握って、まっすぐに彼女の瞳を覗き込む。
今を逃したら、彼女が泡沫みたいに儚く消えてしまいそうで。底しれぬ闇の中に、落ちてしまいそうで。
絶対に、彼女を取りこぼしたくなかった。
「それは、君自身の心も自ら傷付けることになる。前にも言ったが、俺は君には幸せになってもらいたいと思うんだ。だから、もっと自分を大切にして欲しい」
「私は……」
クロエの瞳が揺らいだかと思ったら、俯いた。肩を震わせて、涙を流している。
しばらくの沈黙。彼女のすすり泣く声だけが微かに響いた。
そして、
「……ユリウスには分からないわ」
唸るような低い声音で彼女は言った。
「えっ」
彼女は涙で濡れた顔を卒然と上げて、
「ユリウスには分からないわよ、私の気持ちなんて!」
「っ……」
彼は戸惑いを隠せず、身体を強張らせる。
彼女は、彼の動揺なんて気にも留めずに捲し立てる。
「いいわよね、あなたは。生まれたときから皇子様で、常に周囲には人がたくさんいて。……あなたは、他人から存在を否定されたことはあるの? 声をかけても、まるでここに自分なんて存在してないかのように……まるで、私なんてこの世界に生きていないかのように…………」