ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
あの日以来、クロエとユリウスは会っていない。
彼は何度かパリステラ家に赴いたのだが、彼女は面会を拒否していた。
きっと、彼の顔を見たら気持ちが揺らぐかもしれない。そう思うと、会うのが怖かった。
彼女は聖女の仕事のときも、過剰に護衛を付けて彼を近付けさせないようにしていた。
帝国の皇子の権力を行使したら、小国の侯爵家の脆い盾なんて簡単に破壊できるだろうが、ユリウスは無理に動こうとしなかった。
彼は、クロエの気持ちを優先したかったからだ。
復讐はまだ残っている。それを強引に止めるのは、却って彼女のささくれ立った心をもっと荒らすのではないかと危惧したのだ。
なにより、これ以上彼女を刺激して、苦しめたくなかった。
そして……怖かった。