ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
……父も、クロエを「不義の子」だと疑っている様子だった。
愕然としているクロエの前で母娘二人はぺちゃくちゃとかまびすしくお喋りをしながら、クロエの持ち物――主にドレス、宝飾類、高価な小物を品定めして、それらを自分のものとした。
残ったのは、簡素なワンピースや下着類、本など学問に関するもの……そういった二人が興味のないものだけだった。
スコットから贈られたものは、今度こそ根こそぎ奪われた。ドレス、アクセサリー、可愛いぬいぐるみ、コーラルピンクの万年筆……全てだ。
宝飾類もほとんど持って行かれたが、母の形見である虹色に輝くクリスタルのペンダントだけは彼女が肌身離さず身に付けていたので、辛うじて免れた。
(良かった……)
クロエはおもむろに胸元からペンダントを取り出して、優しく撫でる。
これだけでも無事で良かった。これは母自身も同然だと思っていたからだ。
このペンダントは彼女の母が病気で床に伏してから、しばらくした頃に譲られたものだった。
白銀の鎖に八角錐の透き通るペンデュラムが付いている。
母曰く「お守り」らしい。
今は影も形もなくなってしまった、母の実家の伯爵家に伝わる宝石だそうだ。
母親の家系は不運に見舞われて、継承できる者がいなくなって断絶してしまった。
同時に財産もほぼ消えてしまったのだが、母はこのペンダントだけは大切に手元に取っていたのだ。