ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
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家門の代表者たちがそれぞれの定位置に着く。
さっきまでの騒めきとは打って変わって、会場は水を打ったようにしんと静まり返り、瞬く間に肌を刺すような神聖な空気に変貌した。
ロバートは極度の緊張で凝り固まって、クロエはそんな父を物凄く心配している素振り。そしてユリウスは、女優然とした彼女の様子を固唾を呑んで見守っていた。
初代国王の祭壇をぐるりと囲んで、儀式が始まる。
まずは神官が、続いて代表者たちも魔力の放出を始めた。
「おおぉぉぉぉぉぉおおっ!!」
ロバートは、鬼気迫る様子で一気に魔力を注入する。ありったけの力で、全身全霊で、己の全てを込めて。
にわかに場内が湧き立った。パリステラ侯爵の魔力は、他を凌駕していた。彼は他を押し除け、ぐんぐんと拡大して行き、彼の魔力が魔法陣の器を満たしていく。
他の高位貴族たちも負けじと力を込めるが、彼の尋常でない気迫が、弾くようにそれらを押し返した。
最高潮に盛り上がる会場。頭上の国王や王族たちも、息を止めて彼を見守る。
その場にいる誰しもの視線が、パリステラ侯爵に釘付けだった。
「っ……!」
だが、
しばらくして、限界が来た。
ぷつりとロバートの体内でなにかが途切れる音がして、瞬時に彼の魔力は萎んでいく。
早まった。焦るあまり、発進時に全力を出し過ぎた。
彼の集中力や体力は短時間で極限まで上り詰めてしまい、その反動のように、するすると収縮していく。
(クソッ……! クソッ……!)
萎んでいく彼の魔力の隙を突いて、他の者たちが陣地を奪い返していく。彼も踏ん張るが、がくんと身体が重くなり、なかなか巻き返すことができなかった。
そろそろ魔法陣の器が満杯になる。
あれほど熱かった会場も、今は冷めたスープみたいな白けた雰囲気になりつつあった。
ロバートは焦る。
嫌だ。このままでは、またぞろ社交界の笑い者だ。
パリステラ家の聚落なんて絶対にあり得ない。あの愚かな妻と娘なんかのために、長い歴史を持つ我が家門が。絶対に、あってはならないのだ。
(お父様、頑張ってください……)
そのときだった。
クロエは、周囲に気付かれないように、そっと魔法を――かけた。
父への最高のプレゼントを。
そして、
「おおぉぉぉぉぉっっ!!」
ロバートの魔力が再び火を吹いた。