ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
そして娘であるクロエも、貴賓席で弧を描いて笑っていた。
(これで、もう終わりよ……)
彼女がかけた魔法は、時間の加速。父親の体内に流れる魔力の時間の速度を急激に早めたのだ。
それによって、彼は一生の魔力分を今この場で使い切ることとなる。
全て使い果たせば――、
(魔力は枯渇する……!)
永遠に、消えてしまうのだ。
一滴たりとも残らずに。
ロバートの魔力はとどまるところを知らない。
元より他人より強かったそれが、クロエの魔法により一時的に凝縮された形となって、未だかつてない熱量となって放たれていた。
そのとき、
――バチンッ!
急激な魔力増幅に耐えられなくなった魔法陣の器の一つが、甲高い音を立てて割れた。
次の瞬間、ドン――と、地面が揺れる。そして爆発音。異常事態にたちまち神殿はパニックに陥った。
ロバートの超巨大な魔力は制御がきかなくなり、暴走して魔法陣を破壊しはじめていたのだ。
爆発音は続く。その度に神殿は激しく揺れて、解き放たれた魔力の圧が貴族たちを襲った。
神官たちが大慌てで制御しようと試みるが、まるで分厚い壁で隔たられているかのように、祭壇に近付けもしなかった。
クロエは半ば自棄になって、その様子を半笑いで眺めていた。狂ったように可笑しさが込み上げてくる。
自分の想像以上の出来だった。予想では、あっという間に魔力が枯渇した父が貴族たちの笑い者になり、更に王の怒りを買って、家門は没落するはずだった。
まさか国全体を巻き込む事態にまで発展するとは。
このままでは、結界を張るどころか壊れるかもしれない。そうなると、確実にパリステラ家の者は全員処刑だ。
それは、家門の終焉としてドラマチックで相応しいのかもしれないと思った。
どうせ自分はこの世界から消えるのだ。そうしたら世界はまた平穏に戻る。
なら、今だけのこの状況を存分に楽しもうじゃないか。