ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
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王宮では、王族たちと帝国第三皇子の非公式の晩餐会が開かれていた。
「まさかローレンス皇子が我が国にいらしてたとは! いやはや驚きましたよ」
「お騒がせして申し訳ありません、国王陛下。実は……お恥ずかしい話ですが、ちょっとした私情で参りまして。その、なんというか……求愛行為というのでしょうか」
ユリウスは恥ずかしそうに顔をほんのり赤く染める。大女優であるクロエの真似事だ。
「ほう」国王は興味津々に身を乗り出す。「それは、我が国の令嬢に皇子が恋煩いをしているということですかな?」
「そうなんです」ユリウスは苦笑いで頷く。「実は、クロエ・パリステラ侯爵令嬢に何度もプロポーズをしているのですが、なかなか首を縦に振っていただけなくて……」
「それは、それは……!」
国王は目を見張る。そして、瞬時に頭の中で損得勘定を始めた。
これは好機ではないだろうか。
我が国は、これから一年間は皇子の張った結界の加護に甘んじる。
ということは、帝国の意向には絶対だ。彼らが不当な要求をするとは思えないが、結界を盾に万が一ということもあり得る。
そこに……パリステラ侯爵令嬢という人質だ。
皇子と彼女の婚姻が成立したら、帝国側もさすがに皇子の妻の母国には手を出すことはないだろう。
我が国は皇子の結界で守られて、そして帝国との関係も良好というわけだ。悪くはない。
それに、こちらとしてもパリステラ侯爵令嬢の今後の扱いには困っていた。
彼女自身は立派な令嬢だが、家門に問題がありすぎるからだ。
……もっとも、もうその家門もなくなるが。