ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「皇子。年寄のお節介ですが、よろしければ王命で侯爵令嬢をあなたに嫁がせましょう」
「本当ですかっ!?」
ユリウスは爛々と瞳を輝かせる。
密かにほくそ笑んだ。上手くいった。
国益を考えると、自国の貴族が帝国の皇室に入るのは喜ばしいことだろう。
それに、王はいわく付きの侯爵令嬢の処分に悩んでいたようだ。
彼女への扱いによっては、平民からの王家の信用が揺らぐ可能性がある。同時に、貴族にも配慮しなければならない。
だから、上手いこと引取り先が見つかって、王も肩の荷が下りることだろう。
彼はもう、クロエ自身の気持ちなんて顧みる余裕なんてなかった。このままだと、彼女がどこか遠くへ行ってしまいそうで。
だったら、強引にでも自身の手元に置いておきたかったのだ。
責任感の強い真面目な彼女なら、皇子妃になれば真剣に責務を全うすることだろう。外国の生活は大変なことも多いとは思うが、公務に忙殺されることによって、過去の悲しみやしがらみを振り返る暇もなくなるはず。
そうやって、早くパリステラ家のことは忘れてしまえばいい。
これからは、彼女自身の幸せを追求して欲しいのだ。
「もちろんです」王は首肯する。「我が国としても、帝国の皇族の方と縁続きになるのは嬉しきこと。クロエ嬢は、まずは王族の養子にしてから嫁がせましょう。……今後の二国間の友好関係のためにも」
「ありがとうございます、陛下! ――あ、そうそう。それと今後一年間ですが、帝国との関税を下げていただけませんか? 仮にあのまま結界が破壊された際の被害額に比べれば安いものでしょう? ……王族同士の婚姻の、ささやかなご祝儀です」
「っ……」
こうして、ユリウスはクロエとの婚約――と、一年間限定の関税の減額をちゃっかり取り付けたのだった。
そして、祝い事の前に、けじめを付けなければいけない。
パリステラ家の、処刑だ。