ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「あぁ、まだ生きていたのですね」
そのとき、頭上から静かな声が聞こえた。
我に返って見上げると、そこには娘のクロエが無表情でじっと父を眺めていたのだ。
「クロエか……!」ロバートはおもむろに上半身を起こす。「助けに来てくれたのか……!?」
静寂の空間で、彼の声が響く。
彼女は黙ったまま、父の期待のこもった双眸を見つめていた。
ややあって、
「助け、ですって?」
くすりと、意地の悪い笑いを娘はこぼした。
そして歪んだ顔を父に向ける。
「助けるようなこと、ありましたっけ?」
「ち、父親が無実の罪で投獄されているんだぞ!? パリステラ家の主人が! これは家門にとっても不名誉なことだ!」
「あぁ……」彼女は侮蔑の視線を彼に送る。「パリステラ家などという家門はお取り潰しになりましたわ、元侯爵様」
「なっ……なんだってっ!?」
ロバートは目を剥く。時間が止まったかのように、瞬時に身体が凍り付いた。心臓が波打つように強く鳴って、キンと耳鳴りがする。
クロエは動揺する父とは対比して、淡々と伝える。
「本当ですわ、お父様。本日付けでパリステラ家はなくなりました。まぁ、親子揃ってあれだけのことを行ったんですもの。当然の結果ですわ。――そして、お父様とお継母様とコートニー、三人の処刑も決まりましたわ」
クリスとコートニーは、帝国の皇子の密告で、レイン伯爵家の地下室で発見された。
そのとき、クロエは二人の魔法を解いた。
彼女たちは口から涎を垂らしながら、獣のような唸り声を上げることしかできなくなっていた。どうやら、完全に心が破壊されてしまったらしい。
廃人同然の二人は、今は別の場所に投獄されている。もう自分たちがどこにいて、これからなにが待ち受けているのかを判断できるような精神状態ではなかった。
そしてレイン伯爵令息も、闇魔法の使用に誘拐・監禁・殺人などの罪が加わって、処刑が決定。
死ぬ前に、闇魔法組織について吐かせるために、今も騎士による厳しい尋問が行われている最中だった。