ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「…………」
ロバートは衝撃のあまり、二の句が継げない。
パリステラ家が……なくなる?
急激に寒気が襲ってきて、ガタガタと身体が震えだした。
内側から叩かれるように、頭が痛い。
……終わった。
パリステラ家の長い歴史も、己の栄光も……全てが終わってしまったのだ。
自分の人生は一体なんだったのか。
魔法と、家門のために尽力した人生は、どこへ行ってしまったのだろうか。
目の前が真っ暗になった。
「処刑は明日です。ところで、魔力がなくなってしまったお父様は――」
クロエは父の瞳の奥を凝視しながら、ゆっくりと言った。
「存在する価値なんてあるのでしょうか?」
クロエは静かに立ち去った。
再び地下牢に静寂が訪れる。遠くから風の唸る低音が聞こえるだけだった。
ロバートは牢の中でただ虚空を見つめている。
――存在する価値。
この言葉には聞き覚えがあった。……いや、言った覚えがあったのだ。魔法が枯渇した亡き妻に、生まれてからずっと魔法が使えなかった娘に。
――魔法の使えないお前たちは、パリステラ家の人間として存在する価値はない。
幾度と放った呪いの言葉だ。
それが……まさか、娘から自分に返って来るとは…………。
「はははっ……ははっ……」
ひっそりとした空間に再び彼の声が漏れる。
「あははははははははははははっ!!」
それから、狂ったように、ひたすら笑い続けた。
ずっと。
一晩中。
◆◆◆
翌日、王都の大広場で処刑が執り行われた。
罪人は、元パリステラ侯爵のロバート。その妻クリスと娘コートニー。
観衆が断頭台に立つ三人の姿をみとめた途端、立った。あんなに盛り上がっていた会場も一気に冷え込んでいく。
彼らは皆、常軌を逸した異様な様子で、既に死んだも同然だったのだ。