ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

84 パリステラ家の消滅

 パリステラ家の処刑が終わった。

 呆気なく首が飛ぶ様子は、料理人が朝食のハムを切っているみたいになんの感情も乗っていなくて、クロエは笑いさえ込み上げてきた。

 クロエは王族の近くの席で、隣にはユリウスが座って、二人並んで断頭台を眺めていた。
 処刑の様子に彼女は特に感想は持たなかった。ただ、目の前で流れる景色を見ているだけだ。

 しかし、父親の首が落ちた瞬間、なぜだか急激に視界がぼやけてしまった。意味が分からなくて不思議に思っていると、隣からすっと影が伸びて来て、再び視界が晴れた。

 見ると、ユリウスが湿ったハンカチを持っていた。
 刹那、彼女の胸の奥から、長いあいだ閉じ込めていた感情が溢れて来る。

 普通の家族でいたかった。
 父に、自分のことを……そして、母のことを愛して欲しかった。
 普通に育って、普通に成長して、自分も普通に婚約者と結婚をして、また普通の家庭を築く。
 それは、地味でも派手でもない……そんな普通の人生が良かった。

 でも、彼女の望むものは、もう二度と手に入らない。


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