ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「クロエ、母君の持ち物は全て持って行くだろう?」
「……えぇ」
処刑の日以来、ユリウスは常にクロエの側にいた。
彼は今度こそ彼女を逃しまいと、しつこいくらいに四六時中くっついていた。
今は諸々の手続きや引越しの準備、パリステラ家の屋敷や領地の処理で大忙しだ。
彼は、肉親が一人もいなくなってしまった彼女を守るように、交渉や執務を請け負っていたのだった。
彼女も特に不満を言うこともなく、彼と一緒にいたが、その大人しい様子が却って不気味に思えた。なにか企みがあって、自分を油断させて失踪するのではないかと、彼は一抹の不安を覚えたのだ。
だが、彼女の様子を注意深く観察していると、それは取り越し苦労のようで、彼は安堵した。
もう少しだ。
もう少しで、今度こそクロエと結ばれる。
そう思うと、妙に気分が高揚してきた。
あとちょっとで、逆行前に過ごした時間を越える。
あの、クロエの心の叫びのような大きな嵐が過ぎたら……次は快晴が待っているはずだ。