ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜


 雨風はいっそう強くなって、クロエの身体に降り注いだ。
 冷たさはやがて肉体を越えて心まで麻痺させる。もはや彼女の感情も無感覚だった。

 ただ、自分のすべきことは母と父が婚約する前まで遡って、ペンデュラムに記憶を託して、母を不幸の連鎖から開放する。
 そうすれば、母には新たな道が生まれるし……ユリウスも復讐に黒く汚れた自分よりも相応しい真っ白な令嬢との縁談があるだろう。

 ゆっくりと鐘塔の階段を登る。嵐は間近に迫っている。

 頂上まで辿り着いて、王都を一望した。あのときと同じで、ここからの眺めは最悪だった。
 街は深い湖に沈んでしまったように、静かで、雨が弾けて水底の泥が巻き上がっているようだった。
 風が叩き付けるように彼女を襲って、ふらりと飛ばされそうになる。

 もうすぐ全てが終わる思うと、あのときと違って気持ちは軽やかだった。自然と笑いが込み上げてくる。

 さぁ、
 自分が消えた、輝かしい未来へ――……。

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