ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

「クロエっ!!」

 そのとき、ユリウスが丘の上を駆け上がって来た。
 息せき切らして、ただクロエだけを見つめている。

「おいっ、クロエ! 早まるな!! 待ってくれ!!」

 彼は声帯が千切れるくらいに、必死に叫ぶ。身体中の力を振り絞って。
 だが、前だけを向いている彼女の瞳には彼は映らず、その叫び声は雷の音に掻き消された。

(頼むっ! 間に合ってくれっ!!)

 ユリウスは全速力で鐘塔の階段を駆け上がる。
 絶対にクロエの二度目の逆行を阻止してやらなければと、想った。
 彼女には何がなんでもこのまま今の時間軸を生きてもらうのだ。一人で逃げるなんて許さない。

 そして、
 自分と、二人で、未来へ――……。

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