ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
雷鳴はどんどん激しくなった。
クロエは懐からペンデュラムを取り出す。
握りしめたペンデュラムが微かに光り出した。
そして、たちまち流れ星のような煌めきを帯びる。
「クロエっ!!」
次の瞬間、ユリウスが彼女のもとへ辿り着いた。
動き始めた振り子は、ぴたりと静止する。
「なぜ……」クロエは目を見張って震える声を上げた。「なぜ……ここに来たの……?」
にわかにユリウスが彼女を強く抱きしめる。
「もう、こんなことは止めてくれ……!」
「嫌よっ!」彼女は頭を振る。「もう、私にはこうするしかないの! 私さえいなければ――」
「そんなことはない!」
「でも……私は、この手で三人の人間の人生を終わらせたわ! 人殺しなんて、生きているだけで罪よ……!」
「それでも……俺は、僅かでも良心を持った人間は再びやり直せると思う! 例え罪を犯したとしても、贖罪の気持ちがあるのなら、罪と向き合いながら、もう一度人生をやり直していいんだよ!」
「っ……!」
クロエは一瞬だけ言葉に詰まった。
ユリウスは震える彼女の瞳を覗き込む。
「だから、俺と一緒にやり直そう? 何年……いや、何十年かかってもいい。俺と一緒に、失った信頼を取り戻すんだ! 俺は、ずっと君の隣にいるから……!」
「…………」
クロエの気持ちがぐらりと揺らぐ。
しばらく暴風と雷鳴と豪雨で、胸の中の激情が掻き消された。
二人の間には静寂。
ただ、視線を交わすだけだった。