ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
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真っ白い世界が晴れてクロエが目を開けると、そこは――未だユリウスの腕の中だった。
バチリと二人の目が合う。
さっきまでとは打って変わって頭が冷えた彼女は、途端に恥ずかしくなって、思わず離れようとする。しかし、彼はぎゅっと力を込めて抱きしめ、絶対に逃さなかった。
「……なぜ、ついてきたの?」と、諦めたようにクロエがぽつりと呟く。
「クロエのことが好きだから」
彼の直接的な言葉に、彼女の頬はたちまち真っ赤に染まった。
「わっ……」少しして、やっとの思いで声を絞り出す。「私は……平気で人を傷付けるような最低な人間だわ。あなたのような高潔な方には……似合わない」
「それでも、俺は君が好きなんだ」
ユリウスは微笑みながら、クロエの頬をそっと撫でた。
「君の――優しいところも、真面目なところも、強いところも、臆病なところも、時には卑劣な手を使うところも、打算的なところも、本当は寂しがりやなところも……全部ひっくるめて、俺はクロエのことが好きだから」
「っ……」
ユリウスの包み込むような優しさに、クロエは言葉が出なかった。
本当は嬉しかったのだ。彼の前では自分の嫌な面もあんなに多く晒したのに……それなのに、全てを受け入れてくれるなんて。
彼の未来のためにも、ここは拒絶しないといけないのに、彼女にはその勇気が持てなかった。
だって、彼の腕の中は、とても柔らかくて心地が良いから……。