ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
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そして時間は規則的に進む。
過去の世界に延々と留まっているわけにはいかない。
クロエは、未来に向けて歩き出さなければならない。
お別れの時が来たのだ。
「ローレンス殿下、娘をよろしくお願い致します」
「勿論です、侯爵夫人……っ!!」
ユリウスは固く拳を握りしめる。彼の頬も涙で濡れていた。
「クロエ、この後は殿下にお任せしていれば問題ないわ。帝国でも頑張ってね! あなたたちなら大丈夫だから。二人の子供は――ふふっ、これは内緒にしておいたほうがいいかしら?」
「待って、私たちは過去へ――」
「それも心配しないで。……最後に、私からのプレゼントよ」
母は懐からおもむろにペンダントを取り出した。
それは、クロエと同じ、ペンデュラムの魔石。
「お母様……!」
クロエは目を見張る。次の声を出す前に母の巨大なる魔力に圧倒されて、全身が痺れて動かなかった。
ペンデュラムが輝き出す。
ゆらゆらと揺れ始める様子は、とても幻想的で美しかった。
七色の輝きは、未来へと伸びていく。
クロエは帰る時間が来たのだと、ようやく気付いた。
前へ進もう、と覚悟を決める。
「次は、あなたが母親になる番よ。しっかりね、クロエ…………」
「お母様、大す――――…………」
世界が、真っ白になった。