ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

88 普通の、エピローグです

 そして時間は、再び針を進める。



「ここは……?」

 眩しさが晴れて目を開けると、そこは鐘塔ではなく、規則正しく石が整列してある――王都の墓地の一角だった。

「俺たちは元の時間軸に戻って来られたのか……?」

 ユリウスは腕の中のクロエの瞳を除き込む。オッドアイは再び逆位置に移動していた。

 彼女は彼の腕から抜け出し辺りを見回して、

「これはっ!?」

 驚いた顔をして、大声を上げた。
 そして足元の花を凝視したと思ったら、途端にその場に泣き崩れた。

「クロエ! どうしたんだ!?」

 彼は慌てて彼女を抱きかかえる。
 彼女は嗚咽しながら、

「この……お花は……私が、母が亡くなって一ヶ月後の命日に、用意したものなの……。お母様の生まれた領地にだけ咲く特別なお花よ……葬儀には、間に合わなかったから…………」

「なんてことだ……!」

 ユリウスはぶるりと打ち震えて、凍り付いた。

 侯爵夫人は、自分たちを元にいた時間軸の少しだけ前に戻してくれたのだ。
 それは、まだクロエの継母も異母妹も、パリステラ家にやって来ていない時間軸。

 即ち、クロエが復讐で自らの手を汚していないし、偽聖女だと平民たちが屋敷まで殴り込みに来る前の――、

 まだ、なにも始まっていない時間。

 侯爵夫人は、自分たちにチャンスを与えてくれたのだ。
 真っ白な場所で、最初からやり直す機会を。

「お母様はっ……」クロエは吐き出すように声を出す。「お母様は……魔法を使いすぎて、体内の魔力が枯渇して……そ、そして……生命力まで脅かされて…………命が……………………」

「もういいっ……!」ユリウスはクロエを強く抱きしめる。「それ以上は言うな……っ!!」

 しばらくの間、クロエは彼の腕の中で泣き続ける。

 そして、

 天を仰いで叫んだ。


「お母様は、私を元の世界に還すために、魔力を全て使い果たしてしまったのね……!!」



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