ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
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キンバリー帝国の帝都が見えてきた。
母国の王都よりはるかに巨大なそれに、クロエは圧倒される。
彼女の前にはユリウスが目を細めて、愛しい婚約者を見つめていた。
ローレンス・ユリウス・キンバリー皇子は、あのあと早速パリステラ家へ赴いて、ロバート・パリステラ侯爵へ娘のクロエ嬢への求婚の話を懇願した。
クロエ・パリステラ侯爵令嬢は、この時点でスコット・ジェンナー公爵令息と婚約をしていたので、多少は揉め事も起きたが、最終的にはユリウスが帝国皇室の権力を利用して、クロエとの婚約をもぎ取った。
その後スコットは、クロエの異母妹であるコートニー・パリステラ侯爵令嬢と新たに婚約を結んだ。
奇しくも、スコットとコートニーは互いに一目惚れをしたらしく、今では良好な関係を築いている。
今後の二人がどうなるかは分からない。
それは、これからの彼ら次第。
でも、二人とも愛する人と幸せになればいいなと、クロエは思った。
きっと、誠実で優しいスコットなら、コートニーの歪んだ心も丸ごと包み込んでくれるはずだと思う。
「クロエ、帝国に着いたらまずはなにをしたい?」
「そうね……まずは時の魔法についての文献を――いえ、もうその必要はないわね」
「ま、そうだな」
「じゃあ、お忍びで帝都に遊びに行きたいわ。あの日みたいに、美味しいもの、いっぱい食べさせて?」
「了解」
馬車はゆるやかに帝都へと入って行った。
活気付いている街は、胸が踊るような明るい未来を予感させる。
ふと、ユリウスはおもむろに席を立って、クロエの隣に座った。そっと婚約者の手を握る。彼の大きな手はとても温かくて、彼女の心も幸福に満たされていく。
クロエの持つペンデュラムのペンダントは、宝石箱の奥に眠っている。
彼女はもう、振り子を揺らさない。
だって、クロエの隣にはユリウスがいて、
ユリウスはいつもクロエを見ていてくれるのだから。