ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「お継母様、なにをされているのです――マリアンっ!?」
眼前の凄惨な光景に、クロエは目を剥いた。
そこにはマリアンが一糸纏わずに床に打ち捨てられて、彼女は震える身体を丸ませていた。
身体中に赤く鬱血した痕が複雑な模様のように散らばって、息も絶え絶え、静かに涙を流していたのだ。
「マリアンっ!!」
クロエはすぐさま駆け寄って、羽織っていたカーディガンをマリアンに掛けた。
「お……お嬢さ…………」
囁くようなマリアンの声は酷く震えて、苛烈な痛みを滲ませていた。
「もう大丈夫よ。こんな酷いこと、私がさせないわ」
クロエはおもむろに立ち上がって、クリスを睨め付ける。
「あら、魔法も使えない娘が一体なにかしら? 侯爵夫人であるあたくしの邪魔をする気?」と、クリスも負けじと睨み返した。
「……お継母様、このような一方的な暴力はもう止めてくださいまし。あまりに酷すぎます」
クリスはくすくすと嘲り笑って、
「一方的な暴力ですって? 使用人が罪を犯したら罰を与えるのは主人の義務でしょう?」
「罪ですか? 彼女がなにを犯したのです?」
クロエの怒気を含んだ声音が響いた。
(お継母様はなにをおっしゃっているのかしら。マリアンが罪なんて犯すはずがないじゃない。きっと、また自分の虫の居所が悪いから、侍女に八つ当たりをしているだけなんだわ)
すると、クリスの濃い紅が塗られたねちっこい唇が、ニヤリと三日月型に歪んだ。
「そうよ、罪よ。この女は図々しくも盗みを働いていたの。罪人は力で矯正しないといけないわ」
「盗みですって!?」クロエは目を見張る。「そんな……まさか! 彼女がそんなことをするはずがないわ!」