ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
マリアンはクロエが生まれたときから乳母としてずっと側にいてくれた。
クロエが悪いことをすれば母のように叱るし、一緒に笑ったり時には泣いたりもした。
母の死も乗り越えた。泣き喚くクロエの隣で静かに見守ってくれた。そこには主と従者を超えた絆があった。
クロエはマリアンのことはよく知っている。
正義感が強くて、真面目で、誰よりも人の心が分かる優しい人。そんな彼女が人のものを盗んだりするはずがない。
「証拠ならあるわよ?」
クリスは背後にいたメイドに目配せをする。すると、メイドはハンカチに包まれた中身をクロエに見せた。
「こ、これは……!?」
それは、クロエが持っていた高価なガラスペンだった。
一瞬で、世界が暗転する。
にわかに鼓動が早くなって、呼吸が荒れた。
(これは大事に机の引き出しにしまっていたはずなのに……なぜ、ここに…………?)
凍り付くクロエを背後から抱き締めて、クリスは彼女の耳元で甘い声で囁く。
「可哀想に……。あたくしは、日頃のあなたたちの関係を見ていたから、本当は秘密裏に処理をしたかったの。だって、あなたがマリアンから裏切られたと知ったら傷付くでしょう?」
「うらぎっ……そんなこと…………!」