ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「っ……!」
クロエは黙り込む。次の一手が思い浮かばない。
(どうしよう……どうすればこの状況を乗り越えられる?)
まだ幼く経験の乏しい彼女には、平民から侯爵夫人にのし上がった海千山千のクリスに対抗する術を持っていなかった。
クリスは勝ち誇ったように、甘く言う。
「さぁ……どうしましょう? あたくしは旦那様にマリアンの処分を許可されているの」
にやりと歪んだ笑いを漏らした。濃い薔薇の香水がつんと鼻を突く。
「ねぇ、クロエ。もし宜しければ、今回の件の処理はあなたに譲渡するわ。だって、マリアンはあなたが生まれたときから仕えていたんですものね。彼女もぽっと出のあたくしよりも、あなたから進退を告げられたほうが良いのではなくて?」
(負けた……)
クロエは愕然と、肩を落とした。
自分がマリアンを解雇するとなると、彼女の罪を認めたことになる。
だが、それを拒否すれば、証拠があるのにマリアンを庇うことになる。
それだったら、一旦はマリアンの罪を認めて、これまで育ててくれた恩情で騎士に突き出さずにひっそりと解雇するのが得策だ。