ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
そんな折、彼はクロエに関する良からぬ噂を耳にした。それは仲の良い高位貴族の令息たちの集まりの場だった。
「クロエが……夜な夜な男と遊び歩いているだって…………?」
スコットは目を剥いて、時が止まったように動けなくなる。一拍して、びりびりと指先が痺れた。
楽しい交流の場は一瞬で凍り付いて、重苦しい雰囲気に包まれた。
彼の友人は心配したように眉尻を下げて、
「クロエ嬢に限ってまさかとは思ったのだが、実際にパリステラ家の門の前で彼女と継母が揉めているのを見た人間がいるらしいぜ」
「……っ!」
スコットの肩がびくりと揺れた。
「その話、オレも聞いた」今度は別の友人が困惑気味に言う。「なんでも、クロエ嬢が男と夜遊びへ出掛けようとしているのを新しい侯爵夫人が止めていた、って」
「それで、とある茶会で夫人にその件を尋ねてみたら、ただ苦笑いを浮かべるだけだったらしい」
「………………」
スコットは絶句した。にわかに、ねばねばした嫌な汗が背中から吹き出て、かっと身体が熱くなる。
(まさか……クロエに限って……そんな…………)
彼の知っている婚約者は清廉潔白で真面目で優しくて、マーガレットみたいに控え目に咲いているような子で。それに、軽く指先が触れただけで赤面するような、純情な子だ。
そんな彼女が男と夜遊びだなんて……。