ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「……なかなかイイ男はいないわねぇ」
母娘水入らずの小さなお茶会で、クリスは眉根を寄せて、ため息をつく。
「あーあ。本当は王太子様が良かったんだけどなぁ~。いくらお父様でも、来月に結婚式を挙げる王太子様をあたしの婚約者にするのは無理だよねぇ~」
コートニーも、母親に倣うように、大きなため息をついた。
二人は目下、コートニーの婚約者について悩んでいた。
名門パリステラ家、しかも天才魔導士の伴侶になる殿方を探していたのだ。
コートニーは類ない才能を持つ特別な令嬢である。だから、並大抵の凡庸な令息などはお断りだった。彼女に相応しいのは、王族や最低でも有力な高位貴族でいなければ。
しかし、貴族社会では幼い頃から婚約者を決めている場合が多い。
来月に婚姻を控えている王太子は10歳の頃には既に未来の伴侶が決まっていたし、他の高位貴族の令息たちも予約済みだ。
コートニーは15歳でパリステラ家の正式な令嬢になったので、少々遅すぎた。娘を溺愛している父親も、このことには頭を悩ませていたのだ。
「そうねぇ……」クリスは眉尻を下げて「王太子殿下のご結婚は揺るがないし、名だたる公爵家や侯爵家の適齢期の令息も軒並み婚約済み……隣国の王子様はまだお小さいし、困ったわねぇ~」
「あたしの婚約者になるのだから、家柄も頭も容姿も最高の男じゃないと嫌よ」