ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
(参ったな……)
スコットは困惑して頬を掻いた。
常識からすれば、婚約者がいる身で他の令嬢と密着するなんて、言語道断だ。
しかし、目の前の義妹になる予定の女の子の小動物みたいなもの寂しそうな姿を見たら、頑なに拒絶するのも心苦しかった。彼女のこれまでの境遇を考えると、突き放すのはあまりに可哀想だと思ったのだ。
「……分かった」スコットは小さく笑った。「そう思ってくれるのは嬉しいよ。僕も新しく妹ができるのは楽しみだ。でも、貴族の令嬢が無闇矢鱈に男性の体に触れるのは、良くないことなんだよ?」
「あっ……!」
コートニーは罰の悪そうな顔をして、そっとスコットから腕を引っ込めた。
「その、ごめんなさい……。あたし、まだ平民の気分が抜けていなくて。お異母姉様からもいつも怒られるの……。これ以上叱られないように、気を付けなきゃ」
彼女は目を伏せて、包帯の巻いてある左手首をぎゅっと掴んだ。微かに肩を震わせて。
スコットは眉を曇らせる。
(クロエが妹に怒る……?)
にわかには信じられなかった。
彼の知っている婚約者は、とても優しくて他人の機微に敏感な子だ。つい数ヶ月前まで平民だった異母妹のマナーができていないだけで、叱り付けたりするような苛烈な子ではない。
だが、コートニーはクロエに対して酷く怯えた様子で……。それに手首の包帯はどういうことだろう。彼女の態度だと、まるでクロエからなにか仕置きでもされたみたいだ。
(まさか……クロエに限って……。しかし、あの噂も…………)
スコットの胸の奥に、微かに暗い影が差した。