ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「まぁっ、あなたがクロエ? とっても綺麗なお嬢さんだこと。あたくしはクリス。今日からあなたの新しい母親よ。こちらは娘のコートニー。仲良くしてあげてね?」
クリスはわざとらしくしなを作る。貴族令嬢のクロエにとっては眉をひそめる行為だったが、父親にはそうは映らないらしく、嬉しそうにでれでれと鼻の下を伸ばしてた。
継母の娼婦のような振る舞いと予想外の父の反応に、彼女はぞっとした。
「ほら、コートニー。あなたもお異母姉様にご挨拶なさい?」
クリスが声を掛けると、コートニーは母親の陰からぴょこんと出てきて、ぺこりとあどけないお辞儀をした。
「あたしはコートニーです。今日からよろしくお願いします、クロエお異母姉様」
「クロエよ。よろしくね、コートニー」と、彼女が微笑むと異母妹はふいと視線を逸らしてまたぞろ母親の後ろへ引っ込んだ。
クロエは彼女の無礼な態度にちょっと目を見張ったが、貴族令嬢としての教育を受けていないのだから仕方がないことなのだと思った。
同時に、自分が無意識に二人を下に見ていたことに気が付いて、恥ずかしい気持ちになった。
(お母様が言っていたわ。身分にあぐらをかいて人を蔑んだり、思いやりの心を忘れてはいけない、って……)
クロエは優しい子だった。両親の不仲で家庭環境は悪かったものの、母親や乳母など周囲の教育の賜物で、純粋で人を慈しむ心を持っていた。
父と再婚をして本邸に来たからには、きっと異母妹はこれから侯爵令嬢としての教育を受けていくのだろう。その過程で困ったり辛くなったりすることがあるだろう。
そんなときは、姉である自分が妹を助けてあげなければ。……そう彼女は考えた。