ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「それで……」彼は掠れた声を絞り出す。「侯爵夫人が彼女の行動を止めようとしたって聞いたんだけど……」
「そういうことも、あったかもしれませんね」と、コートニーは曖昧に答えた。
「っ……!?」
スコットは目を剥いて身体を強張らせた。
やはり、噂は本当だったのか。クロエは噂の通りの悪女だったのか。
張り詰めた空気が、彼をこのまま圧縮して潰してしまいそうだった。
(ま、本当はあの女が婚約者の屋敷へ行こうとしてたのを、お母様が邪魔しただけなんだけど)
コートニーは、またまた心の中で舌を出す。
あの日、クロエの侍女が手配した馬車でジェンナー公爵家へ向かおうとしているとの情報を得て、母クリスはすぐに行動に出た。
それは、婚約者との接触を断つと同時に、継子の評判を落とそうと画策したものだった。
お誂え向きにも、あのときは比較的に人通りが多くて、その中には社交に顔が利く者も混じっていたらしい。
継子の悪評はさざなみのように広がって、社交界でも母娘がクロエの様子を訊かれることが幾度もあった。
その頃は夫であるロバートの指示もあって、継子は社交の場に出さないようにしていたので、貴族たちは真実を知る由もない。だから母娘は、前侯爵夫人の娘の悪い噂の真相を尋ねられると、困ったように曖昧に微笑を浮かべてやり過ごすのだった。
それが憶測を招いて、やがて肯定となって、クロエの悪い評判はじわじわと定着していったのだった。