ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
――お父様ったら、酷いの。
卒然と、クロエの言葉がスコットの頭に響いた。
彼女は新しい母親と妹のことを拒絶していた。それは仕方のないことだと思った。誰だって実の母親の死を機に、父親が愛人とその子供を正式な家族として迎え入れたら、胸中は穏やかではないはずだ。
彼自身も、仮にクロエの立場になったら、すんなりと受け入れられる自信はない。
だが、浮かび上がったどす黒い心を、暴力に変換して相手にぶつけるなんて、言語道断だ。貴族……いや、人として許されることではない。
スコットの胸の奥底が、怒りでたぎっていく。
彼は燃えるような双眸で義妹を見やって、
「その左手首の怪我は……クロエなんだね」
詰問するように強く言った。
コートニーは、なにも答えずに困惑気味に俯く。
姉より小さな肩はとても頼りなくて、少し触れるだけで壊れてしまいそうだった。
「そうか」と、スコットは静かに一言だけ返す。
短い言葉の中に、彼のやるせない気持ちが乗っていた。
張り詰めた空気は続いていた。