ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
(あとひと押しだわ……。お坊ちゃまって扱いやすいのね)
コートニーは、彼の中に仄かに生まれた隙を、見逃さない。今やスコットは彼女の獲物で、狩りは意のままだった。
彼女の丸い瞳がぎらりと怪しく光る。
「ねぇ、スコット様?」
コートニーはここぞとばかりに、ずいと前へ出てスコットに密着した。彼の左腕に柔らかい感触が引っ付いて、ふわりと微かなバニラの良い香りが鼻腔をくすぐった。
彼が無礼を咎める前に、彼女が彼に問う。
「あのね、今日のドレス……分かる?」
「…………」
スコットはまじまじとコートニーを見る。
彼女の着ているドレスは見覚えのある色だった。彼の瞳と同じライトブルーに染められた、シルクのAラインのドレス。シンプルな型に、たくさんのリボンで可愛らしく彩られて……。
彼は、目を剥いて、息を止めた。
(このドレス……見覚えがある)
コートニーは、スコットの驚く顔を認めてから、ゆっくりと大きく頷いた。