ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
コートニー本心からそう思っていた。
あの日――クロエの部屋へ引っ越す際に、母と二人で異母姉のものを物色していたときだ。彼女はこのライトブルーのドレスに一目惚れをした。
上等な生地で、精緻で上品なデザイン。まさに侯爵令嬢に相応しい一級品だ。
こんな素敵なドレス、偽物の侯爵令嬢には似合わない。
これは自分のものだ。あの女のものは、本来なら全て自分のものなのだ。
だから、奪ってやった。
あの女が泣き叫ぶ姿は、喜劇のように愉快だった。
いずれ、目の前の婚約者も自分のものになる。
そのときの異母姉の姿を想像すると、興奮でぶるりと全身が打ち震えた。
「だって……」
コートニーは涙を一雫こぼす。
さぁ、最後の仕上げだ。意地悪な異母姉にいびられる悲劇のヒロインを演じて、貴公子の心を我がものにするのだ。
「あたしは……」彼女の涙が加速する。「愛人の子だし、令嬢の基本もなっていない駄目な子だけど……。でも、お異母姉様とは仲良くしたくて……。でも、お異母姉様は……あ、あたしのことを…………」
その後の言葉は必要なかった。彼女の綺麗な瞳からぽろりと零れ落ちた涙が、答えだった。
スコットはコートニーの涙に全てを察して、受け入れる。
そして――、
「きゃっ! ス……スコット、様……?」
にわかに、スコットは悲しみに震えるコートニーを、ふわりと優しく包み込んだ。
「もういいんだよ、無理しなくて。……僕が、君の味方になる」
「はい…………」
コートニーはスコットの腕の中に顔をうずめた。彼の胸は、火傷しそうなくらいに熱を帯びていて、彼女の体温も一気に上がった気がした。
いつの間にか張り詰めた空気は、熱情がこもった空間に打って変わっていた。
そのとき、焦ったように勢いよく部屋の扉が開かれる。
「スコット、ごめんなさい! 昨晩は遅くまで本を読んでいたから朝起きられなく――て…………」
抱き合う二人の目の前に、化けの皮が剥がれて悪女という本性をあらわした姉――クロエが現れたのだった。