ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「随分な早起きだな」
しばらくして、スコットの皮肉にまみれた冷淡な声が響いた。その声音は、いつもの優しさが内包された温かみはなく、真冬の泉のような冷たさで、クロエの不安を煽り立てた。
「どっ……」数拍してクロエはやっと消えそうな声を絞り出す。「どういう、こと…………?」
「どういうことだって? それは君のほうに訊きたいね」と、スコットの険しい声がクロエを刺した。
「な……なにを言っているの……?」
クロエは動揺して、思わず半歩後ずさる。
ただでさえ婚約者と異母妹の不貞を目撃して、あまつさえ婚約者からの非難。彼女の思考は現実に追い付かずに、ぐちゃぐちゃと頭の中を駆け巡っていた。
射抜くような目線を外さないまま、一拍してスコットはため息をつく。
「君は毎日のように朝まで遊び歩いているらしいな。社交界で噂になっているぞ。とんでもない醜聞だ」
「えっ……?」と、クロエは目を丸くする。
意味が分からなかった。
自分は毎日、魔法の勉強しかしていない。それだけでへとへとで、夜は眠い目を擦りながら魔導書を読み耽っているだけだ。