ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
(私が夜遊び……? もう、ずっとお屋敷から外へ出ていないのに……)
前にクロエがジェンナー公爵家へ向かおうとして継母に阻止されて以来、彼女は侯爵邸から一歩も外へ出ることはなかった。
父親から「魔法が使えないのに侯爵家の代表として参加するのは恥ずかしい」と社交は禁止されているし、王都へ遊びに行くのも「魔法が使えない者が贅沢をするな」と許可が降りなかったのだ。
だから、スコットの言葉に心当たりは全くない――、
(いえ……あるわ)
クロエは、今も我が婚約者の胸の中に居座っているコートニーを、おもむろに見やる。彼女はスコットの腕に抱かれたまま、他人事のようにこちらを見ていた。
根も葉もない噂を吹聴した人物……思い当たるのは異母妹と継母だけだ。
二人はパリステラ家に住み着いて以来、なにが気に食わないのか、ずっとクロエに執拗な嫌がらせをおこなっていた。
きっと今回の噂も、彼女たちがばら撒いたに違いない。おそらくクロエが社交界に顔を出せないうちに、自分たちの地盤を固めようという魂胆だろう。