ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「君はそういう女性だったんだな」
顔を上げると、スコットの凍えるような冷たい視線が、彼女の双眸に落ちてきた。それはとても恐ろしくて、ぶるりと背中に悪寒が走る。
「君には失望したよ」スコットの暗い声が頭上で響く。「そうやって、これまでも妹を暴力でねじ伏せていたんだな」
「ちがっ……」
クロエは反論しようとするが、絞りかすみたいな細い声は、彼に届かずに消えていく。
スコットは険しい視線を崩さない。
「いくら新しい母親と妹が気に食わないからって、やって良いことと悪いことがあるだろう? それに、未婚の令嬢が夜遊びだなんて、断じて許容できない」
「それはっ、コートニーが――」
「まだ白を切る気なのか」
「っ……!」
沈黙。
押し潰しそうなくらいの張り詰めた空気が、クロエの口を閉ざさせた。
(駄目……。なにを言っても話を聞いてくれない……)
悔しくて、やるせなくて……。クロエは押し黙って、ただ唇を噛んだ。血が滲む。だが痛いはずなのに、全身の感覚が麻痺しているみたいに、なにも感じなかった。
絶望と虚無。
それらは彼女の肩にどっしりと乗っ掛かっていく。
さっきまで身体が熱かったのに、急激に指先まで冷えてきた。