ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
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「餌よ」
ゴトリ――と、乱暴に床に食器が置かれる。
それは木材の器で、欠けたふち、中央に大きなひびも入っていて、犬の餌入れとしても心許ない、酷くみすぼらしい容器だった。
「えっ……?」
クロエは、目をぱちくりさせながら眼前の食器を見た。驚きのあまり、身体が強張る。
(どういうこと? 餌、って……私の?)
困惑して動こうとしない異母姉にコートニーは苛立ちを隠せずに、強い語気でもう一度言う。
「だから、餌。ほら、早く食べなさいよ」
コートニー付きのメイドたちが主人の後ろでくすくすと意地悪そうに笑う。「餌」は、クロエの座っているソファーの目の前に無造作に置かれて、その中身は残飯のようなものが、ぐちゃぐちゃに入っているだけだった。
「…………」
クロエは戸惑ってなおも動けない。
「こうやって食べるのよ」
痺れを切らせたコートニーは、メイドに指図をしてクロエをソファーから引きずり下ろして、床に跪かせる。
そして異母姉の髪を強く引っ張ってから、
「っんっ……!?」
彼女の顔を容器の中に思いっ切り突っ込んだ。さらにぐりぐりと後頭部を押さえ付ける。
クロエは息ができずにもがくが、三人がかりで全身を押さえ付けられて、身動きできない。