ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「本当に使えないわね。やっぱり、下男の娘だから能力がないのかしら」と、クリスが眉尻を下げる。
「お母様ったら~。仕方のないことなのよ。お異母姉の真の能力は、殿方の上に跨ってらっしゃるときこそ発揮されるのじゃなくて?」
「あら、そう言えばそうだったわねぇ。でも、せめて下女並に使えるようになってもらわないと困るわ。これじゃあ、パリステラ家の栄光だけを吸い取る穀潰しよ」
「あたしたちで頑張って教育しないといけないわぁ!」
出し抜けにコートニーが立ち上がって、おもむろにティーポットを持った。
そして取っ手の持つ腕を振り上げて、
「きゃっ!」
まだ高温の残る中の湯をクロエの胸元にかけた。
着古して薄くなったドレスの布を伝って、彼女の肌が熱くなった。痛みが走って、思わずしゃがみ込む。
「いいこと? お茶は熱くないと美味しくないの。だから、その汚らしい身体で適温を覚えなさいな」と、コートニーは冷ややかな瞳でクロエを見下しながらくすくすと笑った。
「たしかにそうね」クリスはぷっと吹き出す。「あなたの言う通りだわ。お茶は温度調節が重要だものね」
今度は、継母がクロエの頭から別のポットの湯をかけた。げらげらと貴族らしからぬ品のない笑い声を上げる。背後に控えているメイドたちも嘲笑していた。
二人は交互にクロエに湯をかけて、彼女はずぶ濡れでその場にうずくまっていた。